研究内容 |
ファージ感染不稔機構の解析
枯草菌は、食品や工業用酵素の生産に使用される等、人類にとって、重要な存在です。枯草菌は、栄養条件が悪化することにより、栄養増殖から胞子形成へと向かい、熱や乾燥、ストレスの非常に強い胞子を形成します。
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栄養増殖中の枯草菌 | 枯草菌の胞子 |
バクテリオファージ(ファージ)は真正細菌に感染するウイルスで、1915年にTwortによって発見されました。海洋中だけでも1031ものファージが存在すると見積もられており、地球上では1秒間に1025回ファージの感染が起きていると考えられています。細菌はこのようなファージの感染に対抗するために制限酵素やCRISPRなど様々な防御機構を発達させてきました。当研究室では、グラム陽性細菌である枯草菌のファージ防御機構について研究を行っています。枯草菌はSPβファージの溶原化により特定のファージに対しての抵抗性を獲得します(図1)。
SPβ+ | SPβ- |
(図1) |
SPβが溶原化している枯草菌(SPβ+)ではSP10ファージを感染させても溶菌しませんが、SPβを欠損させた株(SPβ-)では溶菌します。
機能性低分子RNAによる遺伝子発現制御
ゲノムDNA上の遺伝子は転写、翻訳を経てタンパク質に変換され機能発現することから、生命現象の理解にはタンパク質をコードする領域が重要であると考えられてきました。しかし近年、タンパク質をコードしない機能性低分子RNA(sRNA)がゲノムDNA上に多種類存在しており、sRNAは遺伝子発現を様々な段階で制御し、多くの生命現象に関与することが明らかとなっています。細菌においてはsRNAがストレス応答、環境順応や病原性と深く関連しており、新しいsRNAの同定やその機能を知ることによって、細菌の制御や感染症予防に結びつく可能性があります。当研究室では環境常在菌や病原細菌におけるsRNAの機能解明を目標として、新しいsRNAの探索や個々のsRNAの機能解析を行っています。実際、これまでに私たちは環境常在菌のゲノムDNAより数種の新しいsRNAを同定しており、さらに病原細菌においてsRNAがmRNAとの塩基対合を介したユニークな転写後制御機構によって主要な毒素発現を調節していることを見出しました。現在、複数の新規sRNAの機能解析を進めており、sRNAによる新しい遺伝子発現制御機構の発見やその制御を応用した細菌の制御を目指しています。